就職後1年で半数近くが離職
就職できても、転職・退職に悩む人は少なくありません。障がい者の転職・退職には、どんな理由があるのでしょうか。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者職業総合センターの2015年調査(回答人数5305人)では、一般企業に就職後3カ月時点での定着率は76.5%、就職後1年時点での定着率は58.4%と、3カ月時点では4分の1、1年時点では半数近くが、離職している事実が浮かび上がります。
厚生労働省が調査した2014年卒業者(44万1783人)の就職後1年後の離職率が12.3%であることを考慮すれば、規模や時期などの調査条件は異なるものの、障害者職業総合センターの調査結果とは大きな開きがあり、障がい者の就業継続の難しさがうかがえます。
障害者職業総合センターの調べでは、離職理由は「自己都合」が69.3%と最も多く、会社都合は3.7%、契約期間満了は7.3%となっています。つまり、転職・退職者は形式上、会社の事情によって離職したのではなく、自身で離職を申し出ているということです。
また3カ月未満で離職した人の具体的理由として「労働条件が合わない(賃金が低い、労働時間が長いなど)」(19.1%)、「業務遂行上の課題あり(体力的につらい、作業環境が合わない、業務上の意思疎通が難しいなど)」(18.1%)、「障害・病気のため(障がいや症状の再発や病気・ケガなど)」(14.3%)の回答が多くありました。
求人種類別の1年未満離職者の具体的な離職理由
労働条件が合わない | 業務遂行上の課題あり | 障がい・病気のため | 人間関係の悪化 | キャリアアップのため | |
---|---|---|---|---|---|
■離職時期:3カ月未満 | |||||
障がい者求人 | 15.5% | 16.3% | 17.9% | 12.0% | 0.8% |
一般求人障がい開示 | 24.5% | 19.7% | 15.3% | 8.3% | 0.4% |
一般求人障がい非開示 | 18.1% | 18.4% | 10.4% | 8.3% | 2.8% |
合計 | 19.1% | 18.1% | 14.3% | 9.5% | 1.4% |
■離職時期:1年未満3カ月以降 | |||||
障がい者求人 | 7.8% | 11.0% | 18.8% | 13.2% | 3.4% |
一般求人障がい開示 | 16.6% | 11.0% | 18.6% | 9.0% | 6.9% |
一般求人障がい非開示 | 8.5% | 7.0% | 12.4% | 7.0% | 3.1% |
合計 | 10.1% | 10.1% | 17.4% | 10.8% | 4.2% |
※障害者職業総合センター調べ、一部選択肢省略
応募方法の違いによる勤務環境の差
上記の表から、求人種別と障がい内容の開示有無による退職理由の傾向や違いが見てとれます。内訳をみると「労働条件が合わない」は、一般求人で就職し、障がいを開示していた場合が24.5%、一般求人で就職し、障がいを非開示だった場合は18.1%でした。それに対して、障がい者求人で就職した場合は15.5%と、求人条件によって、大きな差が出ていることがわかります。
「業務遂行上の課題あり」も同様で、一般求人で就職し、障がいを開示していた場合が19.7%、一般求人で就職し、障がいを非開示だった場合は18.4%、障がい者求人で就職した場合は16.3%でした。
上記の結果から明らかなことは、一般求人で就職した場合、そもそも勤務条件が障がいの有無にかかわらず同一である場合が多く、たとえ障がいを開示して、採用試験で就職前によく相談していても、働いてみた結果、働き続けられるような労働条件が整わなかった、あるいは、業務を遂行する上で、困難にぶつかり、それが離職の結果になったということです。
一方で、障がい者求人で、最初から障がいに対して一定の理解や配慮を得て就職した場合は、労働条件や業務遂行上の課題を理由に離職している人は、一般求人による就職に比べて少なくなっています。障がい者を対象にした求人なので、障がいがあることを前提に、労働環境や担当業務について、継続的に取り組みやすいよう、就職者本人とよく相談したうえで、企業側も可能な範囲で配慮を行っている可能性が高いということでしょう。
継続的に勤務するために健康管理も大切
ただし、「障害・病気のため」との回答では、一般求人で就職し、障がいを開示していた場合が15.3%、一般求人で就職し、障がいを非開示だった場合は10.4%、障がい者求人で就職した場合は17.9%と、この回答では、障がい者求人で就職した人の割合が高くなっています。つまり、就職後には、業務に大きな支障を出さず働き続けられるよう、健康の維持や、障がいの程度に応じた業務や職場との調整が必要になるということです。
就職後1年時点での離職理由の回答割合は、「労働条件が合わない」(10.1%)、「業務遂行上の課題あり」(10.1%)、「人間関係の悪化」(10.8%)などに対して、「障害・病気のため」が17.4%と多くなっています。労働条件や業務遂行上の課題、職場の人間関係よりも、健康の維持や障がいの程度に応じた業務や職場との調整が重要だと分かります。
また3カ月時点と1年時点で離職理由をさらに比較すると、「キャリアアップのため」が3カ月時点で1.4%に対して、1年時点では4.2%と高く、仕事で一定の経験を積んだうえで、転職・退職をキャリアアップのために転職を希望する人も一定割合を占めています。
採用者が安心できる回答を具体的な言葉で
転職の際に、障がい者求人から応募することで、障がいへの理解・配慮を得て、職場や業務と調整しやすく、働きやすい条件・環境を整えることができると言えそうです。
また採用面接では、必ず転職理由を聞かれます。その際、「労働条件が合わない」ことがきっかけであれば、前職ではなぜ条件が合わなかったのか、また今回はどうしていきたいのか、明確に答えられるようにしておくことが大切です。
「業務遂行上の課題あり」の場合も、ただ前職の仕事への不平不満を述べるのではなく、前職で役割を全うしようと努力したこと、上司や同僚と相談しながら仕事を進めたうえで、自身が感じた課題を簡潔にまとめ、転職先で同じような業務の担当になったらどうするのか、どんな業務を担当したいのかをわかりやすく伝えられるようにすると良いでしょう。
「障害・病気のため」を理由とした転職であれば、前職で仕事の継続が難しかった理由と、今回はどのような対策やサポート体制を考えたり、必要としたりしているのか、仕事を続けるために、経験をふまえて工夫したいことなどをはっきりと伝えることが必要です。
転職・退職の理由は人によってさまざまです。どんな理由であっても、転職の採用面接では、転職先の採用担当者に、安心して「仕事を任せたい」「仕事を続けられそうだ」と思ってもらえるように、「働きたい熱意」や「働き続けるための具体的な工夫」を具体的にしっかりと伝えることを意識しましょう。